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オトメの帝国と俺

今年の3月中頃は時間ばかり経っていく様な、なんとも気合の入っていない日々を繰り返していた。

周囲は来たる新年度への準備をしているんだろうなと思いながらも、自分は中途半端に温い布団の中でスマートフォンをいじっていると、湿気で曇る画面にメガネとギャルの二人のイラストが流れてきた。

投稿者のプロフィールに移動すると、連載作品にオトメの帝国という懐かしいタイトルがあった。

 

 

オトメの帝国を初めて知ったのは中学生のとき。集英社のウェブサイトで漫画の試し読みをしていたら、新着作品の数ある表紙が並ぶ中に一際艶かしい笑顔をこちらに向けてピースする女子高生二人が描かれた第一巻を見つけた。タイトルからして女の子がいっぱいでてくる作品なんだろうなと思いつつ、クリックでページをめくっていくと本編はじまって1ページ目からブラジャー、パンツ、乳輪と邂逅。あまりにも早いうちに中学生満足セットを提供され、おまけにチラリズムの初等教育も受けてしまった。しかし、思春期真っ只中の当時の俺には、この漫画を話題に盛り上がれる友達もいなければ単行本を買って自分の本棚に置く勇気もなかったので、この衝撃は早々に忘れてしまった。

 

その漫画が10年経って再び目の前に現れ、ジャンプ+のアプリをインストールすれば初回は全話読める!なんて謳い文句にやすやすと流された俺は「あの頃試し読みといえば1話分も読ませて貰えなかったが、こんないい時代になるなんて思いもしなかった。」と老害のようなセリフをぶら下げたままオトメの帝国をむさぼりはじめた。

読み進めているとふと気がつく事がある。多感な中学生だった頃の俺が最初にタイトルと表紙を見て想像した記号的なエロさカワイさだけでは収まりきらない人間の愛しさをさらっと漫画という形式で表現されており、チャーハンを買ったコンビニの袋の中に箸とお手拭きの他にスプーンも入っていた時の様なやさしさと自由を与えられながら読む事ができるのだ。

おかげで無駄に溶けるはずだった3月を決して無駄ではない意味のある時間に使うことができた。

あっという間に最新話まで読み終わってしまったとこで、これは物として手に入れたいと単行本を全て購入し、それでも足らんと信頼できる友達や家族に紹介し、今では最新話がアップロードされるたびに読んでは生まれた感情や思いをぶちまけ合える様になった。10年前の自分にあの時獲得できなかった二つをたったの数ヶ月で手にした今の現状を伝えたらさぞ目をパチクリさせるんだろう。

だからここまでくると俺が読んでいるというより、オトメの帝国に読まされているのに近い感覚を覚えてしまう。

 

最近では更新頻度がほぼ倍に増えオトメの帝国ミニとか言う名ばかりのデカイ話を数ページでさも平然と展開する詐欺行為を働き始めたかと思えば、snsでメガネとギャルといった別作品を作り始めたりソフトビニール人形生産の計画を進めたりと、かなりやりたい放題なご様子。イっちゃっているってこう状態を指す時に使う言葉なんだと思う。

そして一読者として、このぶちかましっぷりに楽しむ気持ちと、岸 寅次郎という名義での一連の活動が本当にたった一人で行われているのかという勘ぐりが今日も止まらないのである。