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くたくたフィギュアのおはなし

通っている病院に行く時、診察までの待ち時間や帰りに寄るお店がある。

入り口の横に微妙な顔ぶれのガチャガチャを並べ、ショーウィンドウには色褪せたプラモデルやフィギュアの箱を陳列し、最後に手に取られたのがいつだか想像できないほど薄汚れた日用品がぶら下がるこの店がいったい何屋なのかその店の存在をはじめて知った日から何年も経つ今もまだ知らない。客も自分以外見た事がない。

 

収入がゼロになった頃を境に数年訪問していなかったので、世界情勢のしわ寄せを受けて潰れてても何らおかしくよなー

なんて少し不安に思いながら久々に病院の後にその店へ向かうことを決めた。

 

道中通り過ぎる店たちはなんだか小洒落た雰囲気のものに立ち代わっていて、町ぐるみでそういった賑やかな区画へ変わろうとしている流れをすごく感じた。そんな一癖も二癖も無い店に囲まれてオセロのようにあの店も潰れてカフェにでもひっくり返ってるかもしれないとも思ったが

 

着いたその店は前回来た時とまったく同じツラで突っ建っていた

安心して外からガラス越しに並べられたフィギュアを眺めていたら、その中に横を向いたメディコム・トイ製のパラッパラッパーのフィギュアを発見した。

ショーウィンドウに並べられているのに横を向いて中身も値段も見せないこだわりの商法にやられ薄暗い店内へ、2回ほど何処に隠れているのかわからない店の主人に向かって声をかける。しばらくすると店の奥からおじいさんが現れたのでショーウィンドウの中の商品を見たい事を伝えると、鍵を探しにまた店の奥へ消えた。戻ってきたおじいさんの手にはジャラジャラと鍵のついたキーリングがあり、「これだったけなぁ?」なんて言いながら錠の前に向かう。何度か挑戦の末に鍵を開け、店の外からは見えなかった他のフィギュアの箱や、銀紙に包んだ何かをどかしてパラッパラッパーの入った箱を取り出してもらった。外から見た時に箱が正面を向いていなかったので、例え長い間紫外線を浴びまくっていても、退色するのは箱の横の面だけだろうと高を括っていたのだが、手に取った箱は正面が一番しっかり色を吸われ、プリントは総天然色から二色刷りに透明の窓もちゃんと黄ばんでいた。

 

保存状態を一番気にする種類のオタクであれば、まずこの時点で買わないのだろうが、あまりのくたびれ様に感じた味と想定していた値段を下回っていた事を理由に買ってしまった。

店主のおじいさんは値段の印字されたシールとにらめっこした後に、商品価格がいくらか、客のこちらに聞いてきて言われた数をそのままレジスターに打ち込んでいた。「3080円もするのかー」と言いながら人が買ったものをビニールに包み、最後に「ゆっくり作ってね、焦って部品を壊してだめにしちゃう人もいるみたいだから。」と注意喚起もされた。ビニール袋代も取られなかったし、プラモデルを買ったと思っていた様だ。

 

かなりゆるい店であることを再認識し、家に着いてからフィギュアを取り出し「すげーフィギュアがデニムにパンツまで履いてるし、思いの外本体は色が抜けてなくてよかったなー」と思いながら眺めていた。ふと箱の背面に元から印字された値段を見たら2800とあり消費税はしっかり1割支払われていた事がわかりフッと鼻で笑ったしまった。

 

フィギュアは箱に戻したまま今日も色褪せた正面を向けて飾っている。