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海の向こうから

 

2019年の9月、一人のアメリカ人と知り合った。友達の運転する車で大洗までガールズ&パンツァーの聖地巡礼に出かけ、たどり着いた大洗駅で観光案内所のおばちゃんに「車で周るなら彼も一緒に連れて行ってあげて」と付き添いを頼まれたときに。

 

おばちゃんの観光案内という仕事をすべて丸投げされた俺たち二人、ここにアメ公を足してオタク3人。大洗観光作戦が始まった。案内所で貰ったスタンプラリーの紙っぺらを片手に。

 

 

無計画な作戦が始まったのはいいが、彼のことは何も知らない。マジの赤の他人だ。とはいえコミュニケーションに必要な英語のお勉強を高校生の時に放棄してしまったので、文法?ルール?糞食らえのインチキ英語で質問した。何とかアメ公がガールズ&パンツァーの中で特に好きなキャラクターを聞き出すことに成功したので、奴のことをここではそのキャラクターにちなんで安斎と呼ばせてもらう。

その流れでお気に入りのアニメベスト3を聞いたところ

 

・ガールズ&パンツァー

・モンスター娘のいる日常

・結城友奈は勇者である

 

と答えていたので(ラインナップがニッチじゃないか?)、その中ではガルパンしか見たことない俺たちは「あぁー名前しか知らないや」としか返事ができなかった。最後の希望をかけてghost in the shell とAKIRAは見たか聞いたところ「あぁー名前しか知らないや」みたいなことをたぶん英語で言ってたので、車内でのアニメ談義は数回のラリーにて終了した。国際ヲタク交流は失敗。白旗である。主な敗因は日本のオタク二人のレベルが低かった為である。

 

安斎はおとなしいタイプなのか、俺たちにグイグイ話しかけてこなかったので移動中の車内は掛けていたサウンドトラック(もちろんガールズ&パンツァー)以外の物音は無かった。俺はyoutubeのアニメリアクション動画によって海外のヲタク=賑やか というイメージが脳に完全に刷り込まれてしまい勝手にもっと騒々しくなると思っていたのだが当然そう言うタイプばかりではないのであろう。

 

一行は作中に登場する大洗磯前神社に行き、本編で戦車が駆け降りた長い階段の写真を撮影をした後、マリンタワーで展望からの景色を眺めつつ、大洗女子学園の制服に身を包んだ東南アジア人らしき女性から給仕された茶をすすった。道中の会話を詳しく覚えてないんだけど、劇場版をどこまで見たか聞いたらアメリカだと2話目がまだ観れないって話してた。地上波の放映だと配信との時間差もあまり無いんだろうけど、映画となるとまた別の事情があるのかもしれない。知らんけど。友達は安斎とミリタリーの話をしてた気がする。

 

他には今にも棺桶に片足を引っ張られてそうなseaside station の中にある大洗ガルパンギャラリーでお土産を買ったり、例のスタンプラリーを完成させて絶妙にチープな景品を受け取り、残った時間で市街地を徘徊した。

 

街中いくつかのお店の前には作中のキャラクターが印刷されたパネルが置かれており、大洗駅の案内所にはどのお店にどのキャラクターのパネルが設置されているか記されているポスターが掲示されていた。それを事前に見ておいたので旅の最後に彼のワイフがいる呉服屋へ向かった。呉服屋に到着した時には閉店の準備をしていたので、お店の方にお願いしてパネルの写真だけ撮らせてもらった。店内には安斎千代美のグッズがたくさん飾られており、彼女(パネル)のとなりに立って写真を撮ったとき、彼はその日一番の笑顔を見せていた気がする。最後に店員さんから「今月の23日に安斎千代美の誕生日を祝うイベントを行うので是非いらしてください」とすすめられたが、そのころ彼は日本におそらくいない。残念だ。

 

そのあとは安斎の泊まっている場所付近の駅まで静かな車を走らせ安斎との別れをもって作戦を完遂させた。

 

そして約4年の月日を経て彼は再び来日するのである。snsのアカウント教え合っておいて本当によかった。